牧之原竜巻被害?集中豪雨
(2025年9月5日) 

静岡県牧之原市で竜巻とみられる突風被害が発生しました(9月5日13時頃、市役所に住民からの通報が多数)。
気象庁機動調査班の現地調査による報告では、9月5日12時50分頃、
牧之原市静波(しずなみ)から榛原郡吉田町大幡(おおはた)にかけて発生した突風被害は竜巻と認められ、
日本版改良藤田スケールでJEF3に相当すると判断されました。
建物等の被害状況から3秒間平均風速は75m/sに達したようです(国内で発生した過去の竜巻と比較して最強クラス)。

静岡県のまとめ(9月10日時点)によると、
牧之原市における住家全壊は1棟、半壊は149棟、一部損壊は960棟に達しました。
また、吉田町では、住家全壊が1棟、半壊が8棟、一部損壊が143棟に達し、自動車内にいた男性ひとりが亡くなっています。


牧之原竜巻の被害建物分布

地理院地図に建物被害場所をプロットして、俯瞰表現にしたものです。
静岡大学小山真人先生が撮影した写真(空撮を含む)を閲覧し、
国土地理院空中写真やGoogleストリートヴューと対比させながら、
建物発生地点を特定してマークしました。マークしたポイントは68地点です。
なお、被害建物を網羅しているわけではありません。
背景となる地理院地図は(こちら)です。上図の部分拡大は(こちら)。

竜巻はおそらくは、針ヶ浦岸付近で発生し、北北東に進んだものとみられます。
被害の全容を把握できているわけではありませんが、
牧之原市「時ケ谷」「細江」「道上」では建物被害が集中しています。
丘陵斜面の木が倒れていたり、丘陵地を谷地形でも被害がでています。
竜巻被害地域は、。ほぼ直線状になることが多いのですが(過去に延岡竜巻を調べた例)、
牧之原竜巻では、被害地域の幅が広い印象を受けます(最大で330mくらい)。
竜巻が巨大だったのかもしれませんし、竜巻と同時にダウンバーストが発生したのかもしれません。
看板?電柱などの倒れた方向や屋根瓦のはがれ方から風向きが推定できることがあり、
風向きを地図にプロットして考察することにより、竜巻かダウンバーストか判断できることもあります。
(現地調査をしていないので、詳細はわかりません)

地形を詳しく観察すると、大まかにみて3列(細かく見て6列)の浜堤列が確認できます。
浜堤列は大井川に近づくと、その堆積物によって覆われて不明瞭となっています。
日本の竜巻被害の多くは、海岸平野の海岸付近で発生しています(気象庁竜巻被害分布図)。
(例外として濃尾平野内陸と関東平野内陸では発生する)。
地図で概観すると、滑らかな海岸線付近で発生しやすく、
リアスなど複雑な海岸線付近は発生しにくい特徴があります。

【 突風被害の状況】
写真提供:気象キャスターネットワーク、撮影9月7日

時計の針が12時54分で止まっている(停電発生時刻か)。

屋根被害の様子。東の方向を撮影したもの。中央は榛原総合病院。

スーパーの被害。北西に向いた壁面がはがれている。電柱の復旧作業中。

電柱の倒壊。根元から折れている。電柱の倒壊方向は北北西。

停電中の交通信号を点燈させるための発電機。

倒壊したフェンス。倒壊方向は北北東。


【竜巻発生の背景?天気図】

気象庁作成の速報天気図を動画化したものです。
2025年台風15号は九州南部をかすめて、四国に上陸したのち、
進路を東向きに変えました。
暴風域はなく、台風としては特に強力であったわけではなかったものの、
台風の東側で、南からの暖湿気を呼び込み、
活発な積乱雲を次々と発生させました。

ナルスクールテクノロジーズが公開している
EARTHの地上風流線動画(9月5日13時)

【雨雲の動き?気象レーダー】 

気象レーダー(9月5日12時30分~13時25分)
個々の雨雲は、北東の方向に移動していますが、
静岡県の活発な雨雲は、
反時計回りに回転しているようにみえます。
図中の小さな黒丸は、
竜巻被害があったところです。
竜巻の発生時刻は12時50分頃で、
活発な雨雲の南縁で発生したようです。
右図は竜巻が発生時刻の様子です。
矢印でアメダスの風向風速を入れました。
数字は風速(m/s)です。

御前崎の気圧がもっとも低くなったのは、
12時41分(993.6hPa)でした。
台風中心が御前崎北方を通過し直後に
牧之原で竜巻が発生したことになります。

※浜松では12時28分に998.5hPa(気象官署)
※静岡空港では13時00分に992hPa(METAR時別)
※静浜では13時07分に993hPa(METAR)

【台風15号の通過】

静岡空港と御前崎の風向風速について10分毎の変化を示したものです。
各時刻の風をベクトルで表現して、その始点(あるいは終点)を結んだものです。
12時30分の段階では、両地点とも南東の風が吹いていましたが、
御前崎の風向きは時計回りに変化し、
静岡空港の風向きは反時計回りに変化しました。
このことから、台風(空気の渦)の中心は、
静岡空港と御前崎の間を通過したとみられます。、

 

【温かい海?表面海水温】

気象庁が公開している表面海水温分布図です。
マウスを重ねると平年差がみられます。
海水温は静岡県海岸付近で28℃、沖合で29℃、
南海上では30℃以上とかなり高温でした。
8月下旬から9月初めは一年のうちで
もっとも海水温が高い時期です。
さらに、2025年は平年よりも高い状態でした。
海水温が高いほど、海面上の水蒸気は多くなります。
定性的には、海上からの大量の水蒸気が、
継続的に流れ込み、活発な積乱雲が発生したことで、
竜巻の親雲が形成されたものと考えられます。

 

【猛烈な雨?1時間降水量の最大値】

1時間降水量(5日の最大値?80mm以上) 気象庁アメダスによる1時間降水量の最大値です。
静岡県内の6地点で80mm/h以上の
「猛烈な雨」を観測しました。
特に、菊川牧之原と静岡空港では、
100mm/hを超える記録的な大雨となりました。
ピークの時間帯は、南西から北東に移動します。
掛川 94.0mm 13時04分 観測史上1位
菊川牧之原 127.0㎜ 13時15分 観測史上1位
静岡空港 113.0㎜ 13時18分 観測史上1位
静岡 96.0mm 13時47分  
清水 93.0mm 14時12分  
網代 96.5mm 14時41分 観測史上1位

【静岡県を対象とした防災気象情報】

発表?観測 西部 中部 東部 伊豆
10時02分 竜巻注意情報     竜巻注意情報
10時52分 竜巻注意情報 竜巻注意情報 竜巻注意情報
11時47分 竜巻注意情報 竜巻注意情報    
12時12分 竜巻注意情報 竜巻注意情報   竜巻注意情報
12時57分 竜巻注意情報 竜巻注意情報 竜巻注意情報 竜巻注意情報
13時00分 記録的短時間大雨
菊川牧之原114ミリ
13時00分 線状降水帯発生 線状降水帯発生
13時00分 記録的短時間大雨
掛川市付近約120ミリ
掛川市粟ヶ岳112ミリ
記録的短時間大雨
牧之原市付近約120ミリ
島田市付近約110ミリ
13時10分 記録的短時間大雨
吉田町付近約110ミリ
13時20分 記録的短時間大雨
島田市付近120ミリ以上
焼津市付近約110ミリ
藤枝市付近約110ミリ
13時40分   記録的短時間大雨
牧之原市付近120ミリ以上
   
13時45分 竜巻注意情報 竜巻注意情報 竜巻注意情報 竜巻注意情報
13時50分 線状降水帯発生 線状降水帯発生
14時30分       記録的短時間大雨
伊豆市付近約110ミリ
14時36分
竜巻注意情報 竜巻注意情報 竜巻注意情報 竜巻注意情報
14時40分       線状降水帯発生
  西部 中部 東部 伊豆

【雨の降り方と風向きの変化】

気象庁アメダスによる10分間雨量、最大瞬間風速、風向のグラフです。
上図をクリックすると大きな画像が開きます。

10分間で10mm以上の雨は、大粒の雨が叩きつけるように降る土砂降りの雨です。
なお、1時間雨量で30㎜以上を「激しい雨」、50㎜以上で「非常に激しい雨」、
80㎜以上については「猛烈な雨」と形容されます。
御前崎の1時間雨量は41.0㎜(12時42分)でしたが、
菊川牧之原?静岡空港?静岡?清水では、80㎜/時間、以上の猛烈な雨となりました。

雨の降り方のピークは、御前崎で12時20分、菊川牧之原と静岡空港で12時50分、
静岡で13時20分、清水で13時40分で、ピーク時刻が北東ほどズレています。
活発な雨雲が南西から北東に移動したことがうかがわれます。
御前崎~清水間の距離は概ね50kmですので、
乱暴ながら移動速度を計算すると 50km/80分=37.5km/時間 ということになります。

雨が強まった時間帯は風も強まっています。
最大瞬間風速の際の風向をみると、風向きが時間とともに反時計回りに変化したようです。
(ただし、御前崎は南南西~南風が継続)
雨が激しくなる前は南西風~南風で、雨が激しくなると北風や北東の風が強く吹き、
雨が止んでしばらくすると再び南西となる傾向が出ています。

【静岡空港浸水被害】

台風15号による局地的な大雨により富士山静岡空港の駐車場が水没しました。
空港は丘陵地の尾根を削り、谷を埋めて平坦にして作られました(地理院地図?地形分類?人工地形)。
浸水した第5駐車場の標高は133m前後で、浸水がひどかった北西部分は、132.5m以下だったようです。
なお、駐車場の北側は盛土がされ、航空会社や整備会社の建物が建てられており、
上図では「盛土エリア」を重ね合わせ加工をしています。(静岡空港?ストリートヴュー

大雨によってアスファルト駐車場に降った雨水が低いところに集まってきて浸水したものと思われます。
もちろん排水路は作られていたと思われますが、1時間に100ミリを超える記録的な大雨だったこともあり、
排水が間に合わなかったのではないでしょうか。

 

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平井史生(駒澤大学非常勤講師)